宗教団体法人化の長所と短所

1 宗教法人を設立する長所

(1)財産管理が容易になる

宗教団体を法人化する一番の目的は財産管理を容易にすることでしょう。
個人や任意団体として活動する場合,例えば,不動産の名義をどうするか,仏具などの所有権,収入や支出,利益の分配,相続が発生した場合にどのように処理するか。時に問題が生じます。

法人化することで権利の帰属先を法人にでき,財産管理が容易になります。
不動産も宗教法人名義で登記できますし,収入や支出も明確に分類できます。
また,仏具の所有権など財産の帰属も明確になります。

布教活動自体は別に法人でなくても行えますから,法人化することで得られる長所は財産管理を容易にすることです。

(2)税制上の優遇がある

「宗教法人には税金がかからない」と考えていらっしゃる方も多い事でしょう。
もっとも,全てにおいて非課税というわけではありません。あくまでも宗教行為に該当する範囲で非課税となります。

例えば,お布施などの収入については税金がかかりません。境内地や境内建物への固定資産税もかかりません。

しかし,宗教法人であっても収益事業を行う場合(お料理を作ってふるまう食堂のようなケースなど),株式会社などと同じように税金が課税されます。駐車場経営を行っている土地については固定資産税もかかります。
また,法人から支払う給料などには源泉徴収を行う必要もあります。

あくまで宗教活動についてではありますが,法人税などで税法上の優遇措置があることは法人化の長所といえるでしょう。

(3)墓地や納骨堂の経営ができる

墓地や納骨堂を経営できるのは,地方自治体を原則として,その他は公益法人・宗教法人に限られます。任意団体のままでは,檀信徒の方々のご遺骨を納める墓地や納骨堂を自前で用意することができません。

その場合は法人化し,墓地納骨堂の経営許可を取る必要があります。

 

(4)事業承継がしやすくなる

宗教法人の事業承継の仕方は,代表役員の変更手続を行うことによります。中小企業の社長であれば株式を所有しており,当該株式の承継といった手続が必要になる一方,宗教法人の場合,株式といった概念は無く,事業承継は禅譲といった形を用いる等,代表役員を変更することにより行われます。

宗教法人であれば,代表役員が交代しても,たとえば境内地の名義は宗教法人のまま変更がないので特に不動産登記簿上の手続を行うことはありません。

しかし,個人や任意団体であれば名義変更を行う必要があります。個人名義にしているものがあれば全て名義変更が必要になります。贈与税や譲渡取得税などの税金が発生してくる可能性もあります。

そういった意味でも,法人化している方が事業承継の手続は楽といえるでしょう。

(5)社会的信用が増す

個人や任意団体であれば,外からはどのような団体で誰が代表者なのかよくわかりません。しかし宗教法人であれば,通常,代表者の住所氏名,責任役員の氏名も登記されます。
そのため外部からは誰が責任者で責任役員の議事録は誰と誰の印鑑があれば問題ないかの確認もできます。法人の所在地も登記されますし,外から法人の実体を客観的に確認できるのは社会的信用につながるといえるでしょう。

 

2 宗教法人を設立する短所

(1)設立手続に時間と手間がかかる

宗教法人の場合,設立手続に時間と手間がかかります。株式会社であれば通常は2週間程度で設立することもできますが,宗教法人の場合は3年~4年かかる場合もあります。宗教法人は設立すると税金面での優遇措置もあり,宗教活動を行っている団体であることの実態を所轄庁が確認する必要があるからです。

また,設立に必要な書類の量も多く,専門家に費用を支払い,サポートを受けながら設立することになります。設立の相談があっても実際に進めることができる例は少ないといえます。

(2)宗教法人法上の規制を受ける

任意団体としての宗教団体と宗教法人との大きな違いのひとつは宗教法人法上の規制を受けるか否かにあります。

平成8年に例の宗教法人に最高裁判所が宗教法人としての解散命令が出しましたが,これは宗教法人としての解散を命令されただけで任意団体として存続することまでは否定されていません。あくまで宗教法人法の規制は宗教法人に対するものということになります。

宗教法人になると,例えば規則変更には大臣や知事の認証が必要になったり,財産処分に関する規制があったり,登記事項の変更にも一定の手続や届け出が必要になり,また各種書類の備えおきや,毎年,帳簿類の所轄庁への提出義務なども発生します。

もっとも,これらの規制についてですが,健全な団体であれば当然に行われているようなことを義務化しているレベルの負担です。任意団体であったとしても団体として存続するのであれば当然に行っておくべきことであり,それに加えて所轄庁への手続が必要になるという認識でよいでしょう。むしろ,所轄庁へのきちんと提出を行うことで,団体運営の客観性が担保されると考えるなら,宗教法人法上の規制を受ける点は長所と捉えることもできるでしょう。

 

(3)補助金などが支給対象外になる

宗教法人は,税法上の優遇を受けていることや確定申告を行っていないため,補助金や助成金などの支給対象外になる場合がほとんどです。
宗教法人であっても,収益事業を行っている場合は確定申告を行いますが,コロナ禍にあった持続化給付金などは一律に支給対象外となりました。会計の透明性がどうしても薄くなるため金融機関からの融資も難しい場合が多いのです。
そのため,いざというときの資金繰り対策は独自に行っておく必要があります。例えば,退職金規程を作成し生命保険に加入しておけば,いざという場合の寺族の備えや,修繕費も支出に充てることもできます。対策を行っていない宗教法人はご検討ください。

error: Content is protected !!